私が私とうまく付き合っていく上での〝一番大事な約束事〟とは【神野藍】
神野藍「 私 を ほ ど く 」 〜 AV女優「渡辺まお」回顧録 〜連載第33回
【私の性質は私ですら変えることはできない】
私は自分自身が抱えているもの以上の言葉を書くことはできないと知った。表現力や語彙力が足りていないからではなく、すごく単純に言い表すならば「書きたいこと以上のことは書けない」といったところだろうか。それは書けないことの言い訳だと思われるかもしれないが、「これを読んだ人にこう思われたい」「この議題には今触れておかないと、社会的に良くない気がする」なんて思い始めると、不思議なことに出力される言葉の精度が落ちていく。その段階のものを他人に読ませたことがないので、あくまで私目線での話になってしまうが、どこか文章の歯切れが悪くなり、一つ一つが〈借りてきた言葉〉のように思えてしまうのだ。しまいには読んでいて気持ちが悪くなってしまうほどである。
それが理由でお蔵入りとなった原稿はいくつもある。このエッセイに関連したものも、もちろん含まれている。締め切り直前にもっと表現したいことが見つかって、何度書き直したことだろうか。
私の感情や思考が内容に追いついて表現し直さない限りは、ずっとストレージの奥底に眠ることとなるだろう。どれもそれなりの時間と労力を費やしてはいるが、「私の文章じゃない」と思った瞬間に全ての意欲が削がれてしまうのだから、仕方がないと自分のことながら、自分に言い聞かせている。私の性質は私ですら変えることはできない。その事実を今更ながら思い知った。
今年一年は、私が私のままで戦う一年にするとここに宣言しよう。
言葉の通り、誰かのためでも、何かのためでもなく、この世界のためでもない。ただ私の本能が突き動かされるままに進んでいきたい。何かと取り繕ったり、背伸びをしたりして、神野藍が社会的にどんな存在でいたいかを椅子の上で考えるなんて馬鹿みたいな行為はしない。
私のありのままで、かっこつけずに、その過程でどんなに泥にまみれようとも、私が求める快楽と、私が喉から手が出るほどほしい眩しいものを手に入れるために、全てを費やしていくつもりだ。そこに時間も、努力も、精神ですらも惜しむことはしない。
また、私の戦いが始まる。立ち止まる時間なんて微塵もない。
読者の皆様へ
1月1日に発生した石川県能登半島地震により、被害にあわれた皆様に対し、心からのお見舞いと、一日も早い復旧をお祈り申し上げます。
昨年は大変お世話になりました。今年一年も、私に対して貪欲に追求し、筆を走らせていく所存です。神野藍、そして『私をほどく』をどうぞよろしくお願いいたします。
(第34回へつづく)
文:神野藍
※毎週金曜日、午前8時に配信予定
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